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■社会問題としての教育問題
〜自由と平等の矛盾を友愛で解く社会・教育論〜 

ルドルフ・シュタイナー著/今井 重孝訳
Copyright 2017/四六判上製 232p/
ISBN978-4-7565-0134-9/
定価(2,500円+税)


【内容】

21世紀の社会が進むべき方向がわかる貴重な本。

人類はどんな社会を目指せばよいのか。
健全な社会はどのように実現できるのか。

こうした切迫した問いに対して、シュタイナーは、すでに今から100年近く前の段階で社会の三分節化という画期的な未来社会の方向性を提示していました。 シュタイナーの人間論と教育論、社会論の相互関係がわかる貴重な内容であり、シュタイナーの社会論である「社会の三分節化論」への入門書として読むことができます。


【出版社から】

◎解説が充実しています!

丸2年、青山学院大学の今井重孝研究室に月に2回通い、今井先生と一緒に原稿を読み、理解できないところ、分かり辛いところを質問して先生に解説していただきました。なので、この本は解説が充実しています。途中から今井先生の奥様も加わって、シュタイナーの思想を知らない人にも読んでいただけるようにと、3人でワイワイと話しながら「分かりやすいように」をモットーに編集作業を進めました。今井先生と奥様の人柄もあって、毎回とても楽しく、そして興味深いお話を聞くことが出来て、ありがたくて温かい時間を過ごすことが出来ました。何度も読み直し、時間をかけて作り上げた本です。その思いや時間の長さも全部この本に詰まっていることと思います。沢山の皆さまのお手に届きますように。


【プロフィール】

今井重孝
1948年愛知県生まれ。教育学博士(東京大学)。東京工芸大学教授、広島大学教授を経て現在は青山学院大学教育人間科学部教育学科教授。ニクラス・ルーマンのシステム論とシュタイナー思想をつなぐこと及び現代の教育学とシュタイナー教育学をつなぐことに関心を持つ。著書に、単著『“シュタイナー”「自由の哲学」入門』(イザラ書房)、共編『システムとしての教育を探るー自己創出する人間と社会』(勁草書房)、共編『いのちに根ざす日本のシュタイナー教育』(せせらぎ出版)、共監訳『比較教育学の理論と方法』(東信堂)などがある。


【書評】

「ホリスティック教育/ケア研究」第21号、2018年、55-57頁 所収

井藤元(東京理科大学)

 本書は数多く出版されているルドルフ・シュタイナーの翻訳書の中でも独自の輝きを放った書だといえる。まずはその特徴を示すことにしよう。 既存のシュタイナー関連本のうちには大きく分けて二つの傾向を見ることができる。ひとつは人智学(シュタイナー思想)に馴染みのある者(あるいは馴染もうとしている者)に向けて語りかける、いわば内向きの傾向を含んだ本である。「エーテル体」という用語を聞いて怪訝な表情を浮かべる読者はそこでは想定されていない。もう一つは、外向きの傾向を内在している本。つまり、シュタイナー思想を可能な限り多くの読者へと開いていくことが目指されている本である。ここでは前者を閉鎖型、後者を開放型と呼ぶことにしよう。 シュタイナー関連本は圧倒的に閉鎖型が多い。人智学用語が飛び交う閉鎖型のテキストは、「一見さん」を寄せつけない独特のオーラを放っている。とりわけ翻訳書に関しても、註などで訳者によって付されている解説は、人智学に一定程度以上の理解を示している読者を想定した内容となっているように思われる。 上記の類型に基づくならば、このたび今井重孝氏によって訳出された『社会問題としての教育問題—自由と平等の矛盾を友愛で解く社会・教育論』は開放型のシュタイナー本として分類可能である。しかも、従来のシュタイナー関連翻訳書の中でも稀有な、開放型のシュタイナー翻訳書なのである。本書は一般読者を排除するものではなく、むしろ人智学に馴染みのない読者にこそ、人智学の叡智を感じてもらいたいという熱意に溢れている。それは本書に付されている膨大な量の訳者解説のうちに見てとることができる。今井氏は常に現代的な問題に向き合うためのヒントを探るべく、シュタイナーと対峙している。たとえば、本文に登場する次のような一節。

「誕生前の霊的・魂的存在の継続として子どもが生まれてくることに対して、死後の魂への関心と同じくらいの憧れや関心や興味を抱いていたなら、私たちの世界認識は今日よりはるかに非利己的な性格を持つことになるでしょう。しかしながら、この利己的な性質は、ほかの多くの事柄とも結びついています。ここで現在の人間たちが、背後にある現実的な事実についてますます明確に認識しなければならない一点に到達するのです(198−199頁)」。

シュタイナーによるこの一節について、今井氏は次のような注釈を付している。「背後にある現実的な事実というのは、あとで出てくるように、子どもの成長を、誕生前の子どもの個性の実現過程としてみることに関心がないという事実を指していると思われます。池川明医師の『胎内記憶』(角川SSC新書)により、最近は、胎内記憶の存在が知られるようになりました。調査の結果、胎内記憶にとどまらず、受精以前の記憶を持っている子も少なからずいることが知られてきています。妊婦さんに対してもこうした話題を提供する機会が増えているそうです。その結果、生まれてくる子どもに対して、親が意識的に向き合うようになり、子育てにも良い影響が出てきているようです。こうした現象は、シュタイナーがここで主張している、誕生前や誕生後のことを意識化することが、他者としての子どもへの配慮を生むという意味で、エゴイズムを超えていく可能性を示しているように思われます。近年、シュタイナーのいう生まれる前への眼差しの重要性が認識されつつあるのは興味深い現象です(201頁)」。

生まれる以前を視野に入れることによって、子どもと関わる際の景色はガラリと変わる。そしてそのことがエゴイズムを超えてゆく可能性を秘めている。上記引用のうちに象徴されているように今井氏は様々な知見を引用しつつ、いまを生きる我々へのメッセージとしてシュタイナーの言葉を受け取ってゆく。ここで今井氏が行っているのは、ドイツ語から日本語への翻訳に留まらない。人智学という謎めいた思想が現代社会の様々な問題を解決するための指針を与える豊かな思想として、一般読者にも理解可能な形で翻訳されているのである。ゆえに、今井氏を媒介者として、読者はあたかもシュタイナーが現代に生きる我々に直に語りかけているようなアクチュアリティを感じ取ることができるのである。訳者解説で示されるテーマは、ノディングズのケアリング論とシュタイナー思想の関連性の示唆(209頁)、小学生段階からのディベート授業の是非(41頁)など、多岐にわたっている。 今井氏による「訳者解説」は単なるテキストの解説に留まらない。本書を通じて読者は訳者解説の背後に今井氏の教育観をも読み取ることができるからだ。本書は長年にわたってシュタイナー研究に従事してこられた今井氏の教育論としても受け取ることが可能なのである。この意味において、本書はシュタイナーの1次文献でありながら、2次文献としての役割を果たしている稀有な翻訳書だといえる。

もちろん、言うまでもないことだが、本書は既に人智学を学んでおられる向きにとっても極めて価値のあるテキストとなっている。「人類はどんな社会を目指せばよいのか」。「健全な社会はどのように実現できるのか」。その実現に向けたシュタイナーのアイディア=「社会の三分節化論」。本書はシュタイナー教育学の精神的、文化史的、社会的背景を論じた講演録“Die Erziehungsfrage als soziale Frage—Die spirituellen,kulturgeschichtlichen und sozialen Hintergrunde der Waldorfschul-Padagogik”(GA296,Rudolf Steiner Verlag)を訳出したものであり、「社会の三分節化理論」の画期的なアイディアについて深く学ぶうえで必読の書といえる。 最後に、「訳者あとがき」で示された今井氏の言葉を引用しよう。「シュタイナーのこうした考え方に基づく人間論、教育論、社会論が現実に有効なものかどうかを常識や通念によって判断するのではなく、自分自身の感性・意志・感情・思考に従って吟味することが大切です。常識を疑う視点を持ちつつ、シュタイナーの考え方を吟味しながら、読者の方々一人ひとりが、自分なりの社会観、教育観、人間観を洗練していただけたら訳者としては、これ以上の喜びはありません(229頁)」。このような今井氏の願いは、シュタイナーが彼の読者に対して求めていたことでもあった。人智学の考えを信奉するのではなく、その内容を自らの思考で吟味してゆく姿勢をシュタイナーは読者に求めていたのである。今井氏は本書を手に取った読者にやさしく寄り添い、人智学との良き出会いへと導いてくれるだろう。


【目次】

第一講
1 知力の欠如
2 東洋と西洋
3 自然科学と産業主義
4 機械の透明性
5 社会民主主義
6 模倣存在としての子ども(第一7年期)
7 第二7年期
8 第三7年期
9 宿命論
10 ギリシャの教育の影響
11 ローマ法の影響
12 経済生活

13 社会有機体の三分節化 14 精神科学の力
15 商品・労働・資本
* 訳者によるティータイム

 第二講
1 個性として人格の頂点に立つ
2 ギリシャの心性
3 ローマの影響
4 15世紀の半ば以降
5 抽象的概念の起源
6 現代の課題
7 東洋の語り
8 認識の幻想化と意志の無意味性
9 子どもの発達段階
10 内的な真理感情の必要性
11 人類の発展段階における宗教意識の発展
12 現代教育の課題
13 精神生活での変化の必要性
* 訳者によるティータイム

第三講
1 国民経済学の限界
2 想像的概念の重要性
3 自然全体がイメージ的
4 労働概念とインスピレーションの関係
5 商品と労働と資本の相互の関係について
6 社会の三分節化
7 精神性を喪失した言葉
* 訳者によるティータイム

第四講
1 物質主義の波
2 教員養成の方向性
3 頭(神経・感覚人間)、胸(リズム人間)、手足(新陳代謝人間)
4 不死の問題とエゴイズム
5 誕生の謎
6 頭(神経・感覚人間)、胸(リズム人間)、手足(新陳代謝人間)と   物質体、エーテル体、アストラル体の対応
7 自我の表れとしての外面:個性への着目
* 訳者によるティータイム

第五講
1 知性の時代史へ
2 エジプト・カルデア期の知性
3 ギリシャ・ラテン期の知性
4 15世紀の半ば以降の知性
5 ゴルゴダの秘密
6 憂鬱な表情の新生児
7 宗教的ドグマを越えて
8 悪の到達点としての女性狙撃者たち
* 訳者によるティータイム

第六講
1 四つの体
2 植物的性質を持つエジプト・カルデア期の物質体
3 私という言葉の力
4 後アトランティス第五期(現代)の課題
5 エゴイズムと宗教
6 人類の運命への関心
7 ギリシャ・ラテン文化の影響
8 現在に生きている経済領域
9 精神の自由
10 「われわれ感情」の必要性
* 訳者によるティータイム