メディア責任力と家庭の役割
早い時期からのガイダンスが必要

以下の記事は、ドイツ・アラヌス大学、メディア教育分野の教授であるポーラ・ブレックマン博士の著書*a1から引用しました。

世紀の課題―電子メディアの使い方に責任を持つ

 多くの親は直感的に、赤ちゃんや幼い子どもを電子メディアにさらすのは良くないことだと感じています。この「直感」は間違っていません。最新の科学的研究により、幼い子どもたちが電子メディアにさらされることは有害であることが次々と裏付けられています。

 それは有害だ、と危機感を感じているにも関わらず、現実には、幼い子どもが電子メディアにさらされている時間は驚くほど長く、日常生活に深く入り込んでいます。また、個人情報の漏洩、性的/暴力的コンテンツ、ソーシャルメディアでの暴力的発言、ゲーム依存症、引きこもりや生活習慣の乱れ、成績不振など、電子メディアがもたらす危険は枚挙にいとまがありません。

 しかし、これらのリスクを踏まえた上で、これらの「新しいメディアの世界」を積極的に利用することは可能です。今日生まれた子どもたちが成長したとき、メディアのリスクを正しく理解して自分の安全を守り、便利なツールとしてその可能性を最大限に活用することができるかどうかは、成長のそれぞれの段階に応じた「適切なメディアの利用」を身に着けられるかどうかにかかっています。それには、家庭の中で子どもと一緒にメディアをどう扱うかが、大きく影響します。ですから、親には重い責任があります。

 ここでは意識的に、メディアリテラシーという言葉を使わないようにしています。なぜなら、残念なことに、世の中で「メディアリテラシー」と言えば、ほとんどの場合「デジタルテクノロジーを使いこなすために必要なスキル」を意味する言葉として使われているからです。 メディアを使いこなす〈テクニック〉を学ぶことが目標であってはなりません。 さまざまな形のメディアが適切に提供され、それを利用する人々にとって本当の意味で有用なものである必要があります。 したがって、ここではあえて「メディア責任力」と呼ぶことにします。

メディア責任力の塔 ― 積み上げるには基礎が大事

 

6.選別能力
5.客観的判断力
4.情報受容力
3.芸術・表現力
2.コミュニケーション能力
1.感覚・運動能力


メディア責任力とは?

 メディア責任力とは、第一に、自分が望む、ある目的を達成するための手段として電子メディアを選び、その画面の前でどれくらい過ごすのかを、自ら決定できる能力のことです。言い換えれば、別の活動にではなく、あえて電子メディアに一定の時間を費やそうとする明確な意識のことです。第二に、このテクノロジーを、自分が主導権を持って、その機能を有意義に、創造的な方向に利用できる能力、という意味があります。

 メディア責任力をきちんと身につけさせるために、子どもたちをどのように導いたらよいのでしょうか? 昔からよく言われる「習うより慣れろ」は、電子メディアの学習でも通用するのでしょうか? いいえ、そのように成り行きに任せて習得させてはなりません。ドイツ・リューベック大学が行ったインターネット依存度調査(PINTA Studie, 2011)によると、調査時点ですでに、若い男性のおよそ20人に1人が「ゲーム中毒」、若い女性の20人に1人が「SNS中毒」だったのです*a2

 さらに、より幼いころから電子メディアを使い始めるほど、また幼少期にメディアの利用時間が長いほど、メディア依存症になる率が高まることが明らかになりました。特に、寝室にテレビやパソコンがある家庭の子ども、携帯端末をひとりで操作することが許されている子どもは、その利用時間が非常に長く、依存症のリスクが高いこともわかりました*a3

 さらに、アジア圏の若者を対象とした最近の研究では、技術的な利用スキルが高いほど、不適切なコンテンツに触れる機会が多く、ネット依存症になる人も多かったのです*a4

早く始めて奴隷になるか? ゆっくり待って主人になるか?

 〈ゆっくり待って〉とは、具体的にどういうことなのでしょう? 科学的な事実に基づいて言えば、就学前の年齢で電子メディアを操作する〈練習〉を始めても、成長してから自分で責任をもって、適切にそれを利用する能力にはつながりません。なぜなら、画面に映し出される情報は、目まぐるしく変化する魅力にあふれ、その瞬間を生きる幼い子どもたちは、その映像に〈釘付け〉になってしまうからです。情報の虜になった脳は、他の欲求を遠ざけてしまうため、他のことに興味を示さなくなります。ですから、子どもがメディア漬けにならないよう、周りの大人が責任をもって、適切な時間制限を設定しなくてはなりません。

 〈ゆっくり待つ〉ほうが良かった他の例を一つ挙げましょう。ひと昔前にはかなり人気のあった「ベビーウォーカー(歩行器)」をご存じでしょうか。赤ちゃんの体を支えるハーネスのついた車輪付きのフレームのことです。これを使うと、まだ歩くことができない赤ちゃんが、自分の意思で二足歩行のような動きをして、部屋の中を移動することができるというものです。しかし現在では、健康な子どもにこのような補助具を使用させると、筋肉の発達が遅れ、不自然な姿勢を引き起こすおそれが高まることがわかっており、その使用について小児科医や理学療法士が、繰り返し警告を発しています。

 未熟な子どもに電子メディアを使わせることは、歩く前の赤ちゃんにベビーウォーカーを使わせるのと同じ結果を招くことになるでしょう。子どもは、寝返り、ハイハイ、伝い歩きなどの過程で、歩くために必要な筋肉を強くし、バランス感覚を身につけます。そして時が来れば、自分の意志で立ち上がり、まっすぐ歩けるようになります。電子メディアを使うためにも、その前に、自分自身の感覚を通してこの世界と出会い、バーチャルではない本物の体験を積み重ねておく必要があるのです。

電子メディアが子どもの身体的・社会心理的・認知的発達に及ぼす悪影響

 子どもが電子的な映像メディアにさらされることで、その後の発達にどのような影響があるのか、長期間にわたって追い続けた大規模な研究があります。その結果、下記のような悪影響があることが明らかになっています。

  • 言語、運動能力の発達が遅れる
  • 創造的な遊びをすることができない
  • 睡眠障害
  • 肥満
  • 攻撃性の増加、協調性に欠けた行動
  • 学業成績の低下、特に読解力の低下
  • 注意欠陥多動性障害(ADHD)との関連
  • さまざまな依存症リスクの増加

 電子的な映像メディアの悪影響は、画面の前にいる時間が長ければ長いほど大きくなります。そして「時間」「内容(コンテンツ)」「使い方」が、子どもへのその影響の深さを決定づける3つの要素です。

時間

 電子的な映像メディアが、子どもの身体的、感情的、精神的な発達に、これほどまでに多様な悪影響を与える理由の説明として「置き換わり説」が有力です。映像メディアは、子どもの健全な発育に不可欠な〈活動〉と、その〈時間〉を横取りし、代わりにそこに居座ってしまうのです。創造的な遊びをしなくなることも、この「置き換わり説」で説明できます*a5

 この「横取りし、代わりに居座る力」は、使用するデバイスを問わず強力です。 スマートフォン、タブレット、テレビ、パソコン、ゲーム機など、すべての電子画面は、同じように有害です。

内容

 さらにメディアは、暴力など子どもが見るべきでない不適切な内容によって、その影響力をさらに強めます。ジュリエット・ショーがその著書『Born to Buy(買うために生まれてきた)』*a6 の中で、自身の研究結果にもとづいて警告しているように、世の中に広まっているコンテンツは、消費者の願望をかき立てるように巧妙に作られています。その願望が満たされれば、肥満で不健康な子どもが増え、満たされなければ常に欲求不満を抱えた子どもが増えるのです。

 鮮やかな色、テンポの速い映像の変化、強い音響効果など、刺激の強い表現方法によって、メディアの影響力はさらに強化されています*a7

使い方

 家庭によっては、映像メディアを〈道具〉として、一層不適切な用い方をしています。例えば:

  • 《子守り》 テレビやスマートフォンの動画に子どもの相手をさせる
  • 《罰》 子どもが夢中になっているメディアを奪うことで、それを罰として利用する「静かにしないと見せないよ」
  • 《見返り》 メディアをご褒美にする「おかずを全部食べたら見せてあげる」
  • 《気分転換》 退屈、不安、イライラなどが、タップひとつで忘れられる便利な道具として依存する

などです。それによって、メディアの悪影響は、さらに深刻なものとなっています*a8

親の生活習慣が子どもに影響する。幼い時期に手を打たなければ手遅れに

 電子メディアについての最近の研究では、子ども自身が視聴している場合の影響だけでなく、別の人が見ているメディアに無意識にさらされてしまう、いわゆる「バックグラウンド視聴」の影響も含め、調査しています*a9

 子どもの年齢が低いほど「バックグラウンド視聴」の影響は深刻です。バックグラウンド視聴時間の長い家庭では、親と子のアイコンタクトが減り、交わされる言葉も少なくなっていました*a10。子どもに読み聞かせをするときに、紙の本か電子ブックを使うかによっても違いが現れます。紙の本の読み聞かせでしばしばみられる、読み手と子どもとの間の、深く、温かみのあるやり取りが、電子ブックでは成立しにくいのです*a11

 子どもが幼いうちから映像メディアを見ることを日常的に繰り返すと、あとでその習慣を変えることはより難しくなります。幼児期によくテレビを見ていた子どもは、成長してからもテレビから離れられなくなります*a12。研究データでは、4歳以下でのテレビ視聴時間が長いほど、学童期になって視聴中に親がテレビのスイッチを切った時、激しく親に抗議する子どもの割合が高くなりました*a13

 また別の研究では、子どもが見ていないテレビをつけっぱなしにした室内で、子どもをひとり遊びさせ、バックグラウンド視聴の影響を調べました。親も同じ室内にいるのですが、テレビがついていると、親と子どもの会話が著しく少なく、子どもの独り言や喃語も減り、親とのアイコンタクトも少ないという結果になりました*a14

 同様の悪影響は、親が子どもの世話をしながらスマートフォンを使用していた場合でも見られました*a15。このような、電子メディアによる親子間のコミュニケーションの障害が、長期的に子どもの言語や感情の健全な発達を妨げることは、十分予想できます。

 電子メディアに気を取られるのは子どもだけではありません。子どもの言動に苛立った親が、ストレス解消のためにスマートフォンなどのメディアを使いすぎると、その時間は子どもにたっぷりと意識を向けてあげることができなくなります。その結果、子どもは不安定になり、かえって親のストレスも増す、という悪循環が続くことになるのです*a16

 乳幼児健診の機会を利用して親にアンケートをとり、それぞれの家庭のメディアの利用について広く調査したドイツの研究があります。これまでにドイツ国内で5,000人以上の子どもが調査の対象になりました*a17。その中間集計結果によると、親が日常的に、子どもの世話をしながらスマートフォンを利用すると答えた家庭では、生後1か月から1歳までの子どもに愛着障害の兆候が見られたことが示されています。具体的には、親が子どもの世話の最中に、電子メディアに気を取られることが多いほど、子どもがなかなか寝つかない、寝てもすぐに起きてしまう、などの問題が増加することがわかりました。食事中にスマートフォンを利用する親にも、同じ結果が当てはまりました。これらの問題は、親子の間に健全な絆が育っていないことを示す一例です。

 それだけではありません。電子メディアでストレスから逃げようとする大人は、親子関係だけでなく、夫婦関係(共同養育)にも悪影響が現れます。例えば「子どもをどのように育てたいか」について、夫婦で会話する時間が明らかに少なくなっています*a18

 子どもは親を手本にして育ちます。あなたの子どもがやがて正しくメディア責任力を身に着けられるかどうかは、あなた次第です。あなたの行動が子どもに直接影響するのです。子どもが幼い時期に、親が生活習慣を適切に見直さなければ、手遅れになってしまいます。あなたの生活習慣と家庭環境を見直しましょう。

《画面に接する機会は最小限に》

 小さな子どもの目に入らないよう、ポータブルデバイスは引き出しや高い棚にしまいましょう。

《食事や会話の時間は、心を通わせる大切なひととき》

 家族や、大切な人といるときには、携帯電話やスマートフォンの使用は控え、バッグなどにしまっておきます。誰かからの連絡を待っているときなど、どうしても手元に置いておきたい場合でも、必ずスクリーン側を伏せて置く習慣をつけましょう。

《子どものいる空間では、テレビはつけない》

 大人にとっては有意義な内容でも、子どもには刺激が強すぎることがあります。子ども向けに適切に作られた番組であっても、必ず大人が一緒に視聴し、その番組が終わったらすぐに電源をオフにします。

《電子メディアに子守りをさせない》

 大人の都合で、子どもにしばらくの間、ひとりで静かにしていてほしい時があります。そんな時に電子メディアに頼る誘惑に負けないようにしましょう。子どもが喜ぶようなコンテンツをスクリーンに出して、子どもに渡してはいけません。1歳児でも、画面をスクロールする方法をすぐに習得し、電子メディアのとりこになってしまうでしょう。画面を通さない、現実の体験だけが、豊かな感性を育みます。

※「電子メディア」とは、テレビ、パソコン、電子書籍、スマートフォン、タブレット、ゲーム機など、ディスプレーを使用するあらゆる機器を指します。

※ 特別な支援を必要とする子どもには、専門家の指導のもと、電子メディアを使用することが有効な場合もあります。適切に活用することも大切です。

参考資料

  • 図 《メディア責任力の塔》 BKK mediaprotect Erzieher Manual page13「Abbildung 2: Medienmündigkeitsturm: Schritt für Schritt」Prof. Dr. Paula Bleckmann
  • a1. Bleckmann, P. (2012). Medienmündig – wie unsere Kinder selbstbestimmt mit dem Bildschirm umgehen lernen. Stuttgart: Klett Cotta.
  • a2. See Prävalenz der Internetabhängigkeit (PINTA) (“Prevalence of internet dependency”), a study published by the University of Lübeck in 2011.
  • a3. Bleckmann, P. & Mößle, T. (2014). Position zu Problemdimensionen und Präventionsstrategien der Bildschirmnutzung. Sucht, 60(4).
  • a4. Leung, L. & Lee, P. (2011). The influences of information literacy, internet addiction and parenting styles on internet risks. New Media and Society, 14(1), 117-136.
  • a5. Vandewater, E., Bickham, D. & Lee, J. (2006). “Time Well Spent? Relating Television Use to Children’s Free-Time Activities”. Pediatrics, 117 (2).
  • a6. Schor, Juliet, Born to Buy: The Commercialized Child and the New Consumer Culture (New York, New York: Scribner, 2005)
  • a7. Lillard, A. S. & Peterson, J. (2011). “The Immediate Impact of Different Types of Television on Young Children’s Executive Function”. Pediatrics, 128(4), 644-649.
  • a8. Bitzer, E. M., Bleckmann, P. & Mößle, T. (2014). Prävention problematischer und suchtartiger Mediennutzung in Deutschland – eine Pilotbefragung.
  • a9. American Academy of Pediatrics, “Media Use by Children Younger Than 2 Years,” Pediatrics, Volume 128, Issue 5 (2011).
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  • a14. See Christakis, D. A., Gilkerson, J., and Richards, J. A., “Audible TV is associated with decreased adult words, infant vocalization, and conversational turns: A population based study” (Arch Pediatr Adolesc Med 163 (6), S. 554-558, 2009) and Kirkorian, H. L. u. a., “The impact of background television on parent-child interaction” Child Development 80 (5), S. 1350-1359, 2009.
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  • a17. Die Drogenbeauftragte der Bundesregierung, “Factsheet zur Blikk-Studie” (2017).
  • a18. McDaniel, B. T., and Coyne, S. M., “Technology interference in the parenting of young children: Implications for mothers’ perceptions of coparenting,” The Social Science Journal 53 (4), S. 435–443, 2016.