赤ちゃんが必要な睡眠をとるために

マグダ先生、
生後7か月の娘を寝かしつけるのがだんだん難しくなってきました。これまでずっと抱っこして寝かしつけていたのですが、今はベッドに下ろしてしばらくすると泣いて起きてしまいます。眠くないのだろうと思い、寝かせる時間をどんどん遅くしてみましたが、それでもだめでした。今では、娘も私も十分な睡眠がとれていません。助けてください。

―― 疲れはてた親より

 

ご両親へ
 わたしにも魔法の処方箋があるわけではありません。赤ちゃんの日常生活のさまざまな要因から、問題の原因を特定するのは簡単なことではありません。

 抱っこで寝かしつけるのは、確かに簡単で確実な方法です。しかし、少し月齢がすすみ、赤ちゃん自身が周囲の環境を認識できるようになれば、ある程度目が覚めているうちに、ベッドに寝かせたほうがよいということが分かってきました。ベッドに入った記憶がないまま夜中に目が覚めると、入眠したときと周りの様子が違うために、赤ちゃんは混乱したり、怖くなったりするのです。また月齢の低い赤ちゃんは、抱いた姿勢からベッドにおろすとき、三半規管の状態が突然変化するために、びっくりして目を覚ますことがあります。

 寝かせる時間をどんどん遅くするよりも、眠気の最初の兆候を注意深く観察することをお勧めします。そのときに子どもは眠る準備ができているのです。時間が経つにつれ疲れは増し、スムーズな入眠をさまたげます。最初のタイミングを逃してしまうと、赤ちゃんにとってもあなたにとっても、寝かしつけるのはチャレンジです。疲れがたまれば眠りは浅くなり、夜中に何度も目を覚まし、朝早くから不機嫌に起きてしまいます。日中のストレスや過度な刺激も、疲れすぎたり興奮したりして寝るときにぐずる原因になります。

 私がアドバイスした多くの親たちは、赤ちゃんを早々と寝かせても、その分、朝早く起きるわけではない、ということを知って驚き、ほっとしたのでした。早く寝かせたことで、むしろ起きる時間が遅くなり、睡眠時間が長くなることも、よくあるのです。

 目標は、良い睡眠習慣を身につけることでしたね。良い睡眠習慣を身につけるには、規則正しい生活をすることです。 規則正しいというのは、子どもにとってこれからすることが予測できる生活ということです。幼い赤ちゃんは、規則正しい生活のなかで健全に成長します。食事、睡眠、入浴、外遊びなどの日々の営みが、毎日同じ時間に、同じ順序で行われるのが理想的です。そうすると、赤ちゃんの生体リズムと家庭のスケジュールが無理なく調和していきます。次に始まる出来事を予測できると、赤ちゃんは不安を感じずにすみます。また、親であるあなたにとっても、赤ちゃんが決まった時間に昼寝をしたり、静かに遊んでいてくれれば、その時間帯にあわせて、計画的に家事をすますことができます。

 もちろん、病気のときや、新しい発達段階が始まる直前、例えば、ひとりでできるようになる意欲と、ひとりにされる不安との葛藤で、情緒が不安定なときが、時々訪れます。そういう時期に、子どもが眠りたがらないことがあるのは覚悟しておいてください。生後7か月の娘さんは、そういう成長が始まる時期です。

 必要な睡眠時間や睡眠のパターンは、子どもによって異なりますし、もちろん赤ちゃんの成長によっても変化します。新生児とごく小さい赤ちゃんは、一日に6~10回の睡眠と覚醒を繰り返し、平均18〜21時間眠っています。2~3歳児は平均12~14時間の睡眠が必要と言われています。

 日中、赤ちゃんに起こるあらゆることが、睡眠パターンに影響を及ぼします。もしお外で長い時間遊ぶ習慣があるのなら、屋内で使っているのと同じ大きさの屋外用ベビーサークルを用意することは価値あるお金の使い方です。屋外で昼寝をするのはよい習慣だと思います。

 赤ちゃんの寝かしつけについて少しお話したいと思います。寝る時間が近づいてきたら、だんだんと動きをゆっくりに、声も穏やかにして、家じゅうが静かになるような雰囲気を作ってあげましょう。マーガレット・ワイズ・ブラウンの『おやすみなさい おつきさま』という絵本をご存知でしょうか。この本は、ページをめくるたびに部屋が暗くなり、次第に眠気を誘います。このような感覚を目指してみてはいかがでしょうか。

 寝る前に、いつも決まった「儀式」をすることで、赤ちゃんは寝るための心の準備をすることができます。例えば、おもちゃのお片付けなら、言葉を添えながら片付ける習慣をつけると効果的です。「ボールはこのカゴに、クマさんは棚の一番上にお帰り。おもちゃは朝までここにおやすみ。明日になったらまた遊ぼうね」。このような言葉は、「今夜」と「明日」の間に橋渡しをし、継続性と安心感を与えてくれます。そして「さあカーテンを閉めましょう。大きな電気は消して、夜の電気をつけたら、ねんねのお部屋に行こうね」と続けてもよいでしょう。娘さんは成長するにつれて、あなたの役割を引き継ぎ、自分でそのセリフを言えるようになるかもしれません。

 幼児には、決まったぬいぐるみや毛布など、眠るときに必要な、特別な「おともだち」がいます。娘さんと「おともだち」をベッドに寝かせ、「ゆっくり休んでね、あなたたち二人が気持ちよく眠れるように、毛布を掛けてあげるわ」と「おともだち」のうさちゃんの方に話しかけることができます。それから子守唄を歌ったり、オルゴールを鳴らしたりしてもいいでしょう。

 最後に、娘さんを優しく撫でながら、「おやすみなさい、また明日ね」と言ってあげてください。

 ここまで、寝かしつけに適した雰囲気を作るためのアイデアをお伝えしてきました。しかし、睡眠薬を飲ませでもしないかぎり、他人を眠りにつかせることは誰にもできません。リラックスして幸せな眠りにつく方法は、あなたの娘さんも、他のすべての子どもと同じように、自分で学ばなければならないのです。夜中に目が覚めてしまったときも、何か理由があって助けが必要なときや、怖くなったとき以外は、またひとりで眠りに戻る方法を身につけるのです。

 心の持ち方次第で、大きな違いが生まれます。寝なければならない「かわいそうな」赤ちゃんに同情するのではなく、疲れたときに休むことがどれだけ気持ちいいか、そしてすっきりと目覚めることがどれだけ気持ちいいかを覚えておいてください。
では、やすらかな夜と楽しい日々をお過ごしください。

1984年、マグダ

 

引用元

マグダ・ガーバーの公式サイト
https://www.magdagerber.org/ より
“Helping Your Baby to Get the Sleep She Needs”

マグダ・ガーバー(Magda Gerber, 1910-2007):米国の幼児教育者。赤ちゃんを理解し、生まれたばかりの赤ちゃんを、独立した人格を持つひとりの人間として敬意をもって対することの大切さを説いた小児科医エミ・ピクラーに強く感銘を受け、RIE(Resources for Infant Educarers)を創設、彼女の幼児教育に関する思想を、親や幼児教育にかかわる人々に発信し続けている。
https://www.magdagerber.org/
【参考サイト】https://rie.org/rie-practice-choosing-play-objects/(日本語表示可能)