何もしないのが最高のおもちゃ

マグダ先生、
私は長年、幼児教育の分野に携わってきましたが、先日、初めてそちらの施設を訪れ、とても驚きました。最新の乳幼児用玩具や教材を期待して行ったのですが、そうではありませんでした。プレイルームで目にしたのは、低い棚に整然と並べられた空のペットボトル、アルミ皿、プラスチックのザルなど、おもちゃとは言えないようなものばかりでした。普通の人なら、わざわざ取っておかないようなものばかりです。これらを選んだ理由を教えてください。

―― 迷えるプロより

 

 親愛なるおじいちゃん、おばあちゃん、保護者のみなさん、そして幼児教育のプロの皆さんへ

 皆さんは、「最新の」「より赤ちゃんのためになる」という魅力的な売り文句につられて、そういうおもちゃを探していらっしゃったのですね! そんな皆さんに、赤ちゃんのおもちゃについての私の考えと、お勧めのおもちゃ、避けてほしいおもちゃについてお話ししたいと思います。

 そもそも私は「おもちゃ」ではなく、「遊び道具」と呼んでいます。赤ちゃんは、たとえば自分の手であっても、何かを「操作」して遊んでいるのです。赤ちゃんが「操作」しようとするものはすべて「遊び道具」なのです。

 遊び道具で最も大切なことは、安全であることです。赤ちゃんが触るあらゆるものは、安全でなければなりません。

 安全であることの第一の条件は、一定の大きさがあることです。つまり、赤ちゃんが飲み込めない大きさであることが必須です。また、外れるかもしれない小さなパーツがあってはいけません。これまでどれだけ多くの、テディベアの目玉や耳が、赤ちゃんの胃の中や、便のなかから〈運よく〉見つかったことでしょう。ぬいぐるみの詰め物に使われているビーズや乾燥した豆が、縫い目の小さなほころびから外に出てしまうこともあります。赤ちゃんが、これらの小さくて丸いものを使って必ずやるのは、鼻の中に押し込むことです。赤ちゃんの鼻の中に入りこんだ豆は、粘液を吸って膨らみ、取り出すために病院に行くことになります。

 年長児が遊ぶ小さな玩具(例えば「レゴ」のセットに入っている部品、動物、人形など)は、乳幼児にとってはとても危険です。きょうだいがいる場合、よく注意してこれらの小さなものを赤ちゃんから遠ざけておく必要があります。

 赤ちゃんが誤って飲み込むおそれのあるサイズについて、判断に迷う場合は、「誤飲チェッカー」という簡便な判別器具が市販されていますので、それを利用するのもよいでしょう。意外に大きなものでも、子どもの口に入ってしまいます。(訳者注:おおむねトイレットペーパーの芯を通る大きさのものは、子どもが誤飲するおそれがあると言われています)

 さらに、尖った部分がないか、壊れやすくないか、窒息の原因となるひらひらしたものがないかをチェックすることが必要です。私は、絶対に赤ちゃんには風船を与えません。もし破裂したら怯えさせることになりますし、破裂した風船の破片やしぼんだ風船を口に入れてしまうと、喉に詰まって窒息のおそれがあるからです。同じ理由で、シルクやナイロンのハンカチやスカーフも近づけないようにしています。

 透明な液体に小さなビーズが浮いたアクリルのガラガラなど、中に液体が入ったおもちゃも危険です。もし割れてビーズがこぼれると、好奇心旺盛な赤ちゃんは、まず口でそれを調べるでしょう。親が気付いた時にはビーズはすでに赤ちゃんの体の中、ということになります。

 幼稚園など、複数の子どもが同時に遊ぶ環境では、重たい木製の積み木などは、注意が必要です。集団の中で、それは時にミサイルのように飛んでゆき、他の子に怪我をさせるおそれがあります。もちろん家庭で静かに遊べるときには、木のおもちゃはとても良いものです。

 また、歩き始めた子どもが引っ張って遊ぶ、引き紐のついた犬や自動車のおもちゃも、乳児のいる場所では危険があります。普通に遊んでいても、その長い紐が簡単に首に巻きついてしまうことがあるからです。乳児が、活発に歩き回る幼児と同じ場所で遊ぶ時は、よく注意し、目を離さないでください。幼児には適切で必要な遊びが、乳児には安全でない環境をつくってしまうこともあるからです。

 さて、私がお勧めするものを紹介しましょう。

 赤ちゃんの遊び道具は、ひとことで言えばシンプルで壊れにくく、清潔が保てるものであれば何でもよいのです。家庭でも保育施設でも同じですが、赤ちゃんの遊び道具には、さまざまな大きさ、形、重さのものが必要です。ただし、万が一赤ちゃんの上に落ちたときに、怪我をするような重さのものは避けましょう。乳児の遊び道具で最も大切なことは、それを乳児が見て、触って、掴んで、舐めて、延々と際限なく遊んでいられるようなものであることです。それはおもちゃ屋さんに行かなくても、自宅のキッチンや100円ショップで簡単に見つけることができます。

 小さな赤ちゃんが毛布や服、布切れなどを触ったりしゃぶったりするのが大好きなのは、皆さんご存じだと思います。最初の「おもちゃ」として布を与えるのなら、木綿か麻の、40~50センチ角くらいのバンダナやハンカチがよいと思います。色や柄の異なる既製品をいくつか購入するか、自分で縫ってもよいでしょう。真ん中をつまんで、山型になるようにふんわりと、赤ちゃんの手の届くところに置いて、赤ちゃんがそれを眺めたり、手を伸ばして触ったりつかんだりできるようにします。小さな赤ちゃんでさえ、一枚の布きれで、とても長い時間、いろいろなやりかたで遊んでいられることにきっと驚かれることでしょう。

 実際、私たちの施設では、赤ちゃんが遊ぶためのプラスチックやアルミの日用品がたくさんあります。コップ、ボウル、ザル、保存容器、かご、キャンプ用の食器など、サイズ、形、色もさまざまで、2歳くらいまでの子どもたちが、これらの道具で何時間も飽きずに遊び続けることができるのです。このように「容器」としてつくられた日用品は、赤ちゃんが物をつかんで入れたり出したりすることで、さまざまな動作を試し、身につけることができます。赤ちゃんは遊びながら、かたちや重さ、手触りなどのさまざまな情報を集めるとともに、上手にできた、という成功体験を重ねます。それが自信を育むのです。

 こんな素敵な遊び道具が、ご自宅のキッチンをちょっと探してみればすぐに見つかるのです。カラフルで丈夫なプラスチック容器各種。その中に入れることができるもの。積み重ねられるもの。お互いにぶつけあったり床やテーブルをたたいたりしても、傷つけたり割れたりせず楽しい音がするもの。パンを入れるベーカリーバスケットやプラスチック製の製氷皿も喜びます。もしあれば、冷たく光沢のある金属製のお皿や小鍋などを加えると、バリエーションが広がるでしょう(ただし、取っ手や縁に鋭利なところがないか、よくチェックします)。

 何と言っても、どんな子どもにもおすすめなのは、ボールです。大きなボール、小ぶりのボール、硬くて穴の開いた中空のボール。ビーチボールはパンパンに膨らませるのではなく、少し空気を抜いた状態にしておくと、小さな指でもつかみやすくなります。ゴムボールもいいでしょう。発泡スチロールのものは、かじって食べてしまうことがあるので避けます。水遊びの道具、特に浮き輪は、水遊びだけに取っておくのはもったいない。水のないお庭やお部屋でもいろいろな遊びができます。

 よく洗ったペットボトルは、安全で、小さな赤ちゃんでも扱いやすく、指を突っ込んだりして遊ぶことができます。ペットボトルを倒したり、それで他の物をたたいたりすると面白い音がします。いろいろなサイズがありますが、1~2リットルのものが、子どもには扱いやすいようです。

 少し大きくなって、動き回るようになった子どもには、段ボール箱は最高の遊び道具です。大きな箱は、上に乗ったり、中に入ったり、通り抜けたり、小さな箱は、他の遊び道具を入れる容器になったりします。箱は、家や塔になり、トンネルになり、乗り物になります。当然のことですが、他の遊び道具と同じように、素材が紙であっても、安全で丈夫であることを、よく確認することが大切です。

 愛するおじいちゃん、おばあちゃん。それでもやっぱり、かわいいお孫さんにおもちゃを買ってあげたいですか? それなら、少し大きくなってからも長く使ってもらえるものを贈りましょう。さまざまな形の、美しい木製の積み木。一つひとつのピースに、小さな指でつまめるように突起のついた木のパズル。さまざまなサイズの穴に、安全な塗料で鮮やかに着色された円柱をはめられるようになっている知育玩具など。お気に入りのお人形を贈るのも祖父母の特権でしょう(もちろん、先に述べたとおり、小さなパーツが外れる心配のない、安全な人形でなければなりません)。

 私がお勧めしたこれらの遊び道具に共通することは何だと思いますか? それは、これらは「何もしない」ということです。子どもが自発的にそれに触り、動かしたときにだけ反応するのです。言葉を変えれば、乳児が自発的に、完全に受け身のモノを操作しているのです。ところが、電池やゼンマイ仕掛けで、動いたり音を出したりして子どもを楽しませるように作られたおもちゃは、おもちゃの方が働きかけ、受け身の乳児にそれを見るように仕向けます。このようなことを続けると、子どもは外から楽しませてもらうことを期待するようになり、やがてテレビなどの刺激的な娯楽がないと退屈するようになるのです。

 子どもの遊び道具に派手さは不要です。また使い古されたものが良いとも限りません。その発達のすべての段階において、子ども自身を活動的、自発的にし、子どもが「自分には能力がある」ことを実感できるものが、良い遊び道具なのです。

引用元

マグダ・ガーバーの公式サイト
https://www.magdagerber.org/ より
“The Best Toys for Babies Don't Do Anything”

マグダ・ガーバー(Magda Gerber, 1910-2007):米国の幼児教育者。赤ちゃんを理解し、生まれたばかりの赤ちゃんを、独立した人格を持つひとりの人間として敬意をもって対することの大切さを説いた小児科医エミ・ピクラーに強く感銘を受け、RIE(Resources for Infant Educarers)を創設、彼女の幼児教育に関する思想を、親や幼児教育にかかわる人々に発信し続けている。
https://www.magdagerber.org/
【参考サイト】https://rie.org/rie-practice-choosing-play-objects/(日本語表示可能)